脳と集中

学校でスマホを取り上げると成績は上がるのか全米約5,000校のポーチ導入を調べたら、授業中の使用は61%→13%に激減したのに、テストの点はほとんど動かなかった

DetoxNews編集部 / 2026.09.02 公開
磁気ロック式のスマホ収納ポーチと教室の机のフラットイラスト
結論

学校でスマホを取り上げると使用量は激減しますが、テストの点はほぼ動きません。全米約5,000校のデータを使った2026年の研究の結論です。

  • 授業中の私的利用は61%→13%に激減。ただしテストスコアへの平均効果はほぼゼロ
  • 高校の数学だけプラス、中学はむしろマイナス。効果は一律ではない
  • 導入1年目は懲戒増・幸福感低下も、2年目に反転する

「スマホを取り上げれば子どもの成績は上がる」——学校のスマホ禁止をめぐる議論は、たいていこの期待から始まります。2026年の時点で、米国の約3分の2の州と、世界の半数を超える国が、生徒のスマホ利用を制限する法律を持つに至りました。

では、実際に取り上げた学校では何が起きたのか。全米約5,000校が導入している磁気ロック式ポーチ(Yondr)を対象に、これまでで最大規模の検証が行われています。結果は、賛成派にとっても反対派にとっても、少し居心地の悪いものでした。

何が調べられたのか

研究は全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパー「The Effects of School Phone Bans: National Evidence from Lockable Pouches」(No. 35132、2026年4月公開)。著者はスタンフォード大のHunt Allcott、Thomas Dee、Matthew Gentzkow、デューク大のJason Baron、ペンシルベニア大のAngela Duckworth、ミシガン大のBrian Jacobという6人です。

調べ方は時差つき差の差分析(staggered difference-in-differences)。ポーチを導入した学校と、条件の似た未導入校を比べ、導入の前後で差がどう動いたかを見る手法です。分析の設計は事前登録されており、後から都合よく解釈を変えられないようになっています。

DATA 使われたデータ
  • Yondr社の導入記録(いつどの学校が導入したかの正確な日付)
  • スマホのGPS位置データ(40,542校ぶん・2019年1月〜2026年1月)
  • 各州の標準テストの成績、出席率、懲戒処分の記録
  • Panorama Educationによる生徒アンケート(幸福感・授業への集中・ネットいじめ)
  • 研究チームが独自に実施した全国教員調査(2025年4月開始・約10万8,000件・全50州、全米の中学・高校の約半数をカバー)

スマホは、確かに減った

まず押さえるべきは、この施策がちゃんと効いているということです。「どうせ生徒は抜け道を見つける」という批判は、少なくとも量の面では当たっていませんでした。

校内のGPS通信は、導入から3年目で約30%減少。ただしこの数字は大人のスマホや「電源は入っているが使っていない」端末も拾うので、研究チームは控えめな下限値として扱っています。

もっと直接的なのは教員の報告です。授業中に私的な目的でスマホを使っている生徒の割合は、導入後に61%から13%へ落ちました。およそ80%減で、未導入校の変化を大きく上回ります。

それでも、テストの点は動かなかった

ここが本題です。導入後3年間のテストスコアへの平均効果は、一貫してゼロ近辺でした。しかもこれは「効果があったかどうか分からない」という曖昧な結果ではありません。サンプルが大きいため推定が精密で、0.007標準偏差を超える改善は統計的に否定できる——つまり「小さいけれど確かな効果」すら、ほぼ存在しないということです。

授業中のスマホ使用が8割減っても、テストの点は上がらない。この落差が、この研究のいちばん重い発見です。

高校と中学で、符号が逆になる

ただし平均の裏に、無視できないばらつきがあります。

高校ではわずかにプラス、中学ではわずかにマイナス。全体としてはこの差は統計的に有意ではありませんが、数学に限ると差ははっきりします。高校の数学では成績が0.024標準偏差ぶん上がりました。テストの分布に直すと0.9パーセンタイルの上昇で、これは「指導力の高い先生に当たったときの効果の、およそ5分の1」に相当する大きさです。中学の効果は逆向きで、大きさは半分ほどでした。

なぜ中学で逆に出るのか。研究チームは断定を避けつつ、2つの仮説を挙げています。ひとつは年少の生徒ほど衝動のコントロールが未熟で、スマホを取り上げられると別の逸脱行動に置き換わりやすいこと。もうひとつは、実際のデータでスマホ活動の減り幅が高校のほうが大きいため、中学は「導入と運用のコストだけ負って、得られる利益は小さい」構図になっている可能性です。

補助線になる数字もあります。米国の高校教員の72%がスマホによる妨害を大きな問題だと答えるのに対し、中学教員では33%にとどまります。もともと困りごとの大きさが違う場所に、同じ道具を入れている、ということです。

導入1年目は荒れる。そして2年目に反転する

この研究がおもしろいのは、効果が時間とともに符号を変えることを捉えている点です。

導入した年、懲戒処分は0.03標準偏差ぶん増えました。停学率にすると約15%増です。同じ年、生徒の主観的な幸福感も約0.2標準偏差下がります。取り上げられた直後は、荒れるし、不満も出る。

ところが翌年以降、懲戒の増加は消えます。幸福感はさらに反転して、2年目には+0.16標準偏差のプラスになりました。比較として、同じ著者グループの過去の研究では、Facebookを4週間停止すると幸福感が0.09標準偏差上がっています。その倍近い改善ということになります。

CAUTION ここは慎重に読む
研究チーム自身が、この幸福感の反転については「示唆的(suggestive)」という言葉を使い、解釈に注意を促しています。観測期間が最長3年と短いため、「時間が経って効果が変わった」のか「後から導入した学校がもともと違っていた」のかを完全には切り分けられないためです。

変わらなかったもの

期待されがちな他の指標は、そろって動きませんでした。

ただし後ろの2つについては、導入前から両群の傾向に差があったため、結論として言えることには限りがある、と論文は但し書きをつけています。

他の国では上がっている。なぜ結論が割れるのか

混乱しやすいのは、海外には「成績が上がった」という研究がいくつもあることです。

結論が割れる理由は、たぶん「禁止したかどうか」より「何と比べているか」にあります。今回の研究が測っているのは、ポーチ導入前の各校のルールと比べた差分です。論文によれば、ポーチを導入する学校の多くは、それ以前から「教員の裁量」や「持っていてもいいが出してはいけない」という比較的ゆるいルールで運用していました。つまりゼロから禁止したのではなく、ゆるい禁止を厳しい禁止に切り替えた効果を測っている。上乗せぶんが小さくても、不思議はありません。

実際、フロリダの研究が報告した0.9パーセンタイルという数字は、今回の高校数学の0.9パーセンタイルとぴたり同じ大きさです。方向はそろっていて、量が小さい——というのが、いま見えている全体像に近いはずです。

この研究の限界

公平のために、論文が自ら挙げている限界も書いておきます。

もうひとつ、読み手として知っておくべき点があります。ポーチの提供元であるYondr社は、この研究に行政データを提供した協力先です。論文の謝辞にも明記されています。結果が同社に不利な内容(成績は上がらない)を含むため、都合のいい方向に歪められた形跡は見当たりませんが、データの出どころは把握したうえで読むべきでしょう。

この結果を、家庭にどう持ち帰るか

この研究がいちばん強く示しているのは、たぶんこういうことです。

物理的に遠ざければ、使用時間は確実に減る。ただし、空いた時間が自動的に良いものに変わるわけではない。

授業中の私的利用が61%から13%になっても、テストの点は動きませんでした。減った時間が学習に流れ込むという前提が、そのままでは成立していない。取り上げることは前提条件を作る作業であって、それ自体が成果ではない、という順序です。

そしてもうひとつ。導入1年目は、指標が軒並み悪化します。懲戒は増え、幸福感は下がる。もしこれを「失敗した」と判断して1年でやめていたら、2年目に来るはずだった反転は永久に観測されません。家庭でスマホのルールを変えるときも、同じ形をしているはずです——最初の数週間の荒れ方で、施策の良し悪しを判断しない

よくある質問

結局、学校のスマホ禁止は意味がないということですか?
「成績を上げる手段としては期待できない」というのが正確です。スマホの使用量そのものは大きく減り(授業中の私的利用は61%→13%)、2年目以降は生徒の主観的な幸福感もプラスに転じています。テストの点という一点だけを見ると効果はほぼゼロですが、それは学校生活で起きることのすべてではありません。
なぜ中学校ではマイナスに出たのですか?
論文は断定を避けたうえで2つの仮説を挙げています。ひとつは年少の生徒ほど衝動の抑制が難しく、スマホを取り上げると別の逸脱行動に置き換わりやすいこと。もうひとつは、実データでスマホ活動の減り幅が高校より小さく、中学は導入と運用のコストだけ負って利益が小さい構図になっている可能性です。
導入した年に荒れるのは、やり方が悪いからですか?
必ずしもそうとは限りません。この研究では導入年に懲戒処分が約15%増え、生徒の幸福感も約0.2標準偏差下がりましたが、翌年以降に懲戒の増加は消え、幸福感は+0.16標準偏差まで反転しています。新しいルールの取り締まりそのものが件数を押し上げる面もあり、短期の荒れは移行に伴う現象として現れます。
海外では成績が上がったという話を聞きます。矛盾しませんか?
比べている対象が違います。今回の研究が測っているのは「ゆるい禁止から厳しい禁止に切り替えた差分」で、ゼロから禁止した場合の効果ではありません。実際、フロリダの先行研究が報告した0.9パーセンタイルという改善幅は、今回の高校数学の効果と同じ大きさです。方向はそろっており、上乗せぶんが小さいと読むのが自然です。
参考
Allcott H, Baron J, Dee T, Duckworth AL, Gentzkow M, Jacob B. The Effects of School Phone Bans: National Evidence from Lockable Pouches. NBER Working Paper No. 35132, 2026(DOI: 10.3386/w35132)
本文中の数値はすべて同論文からの引用です。ポーチ提供元のYondr社は同研究にデータを提供した協力先である旨が論文に明記されています。
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