寒くなってくると、寝る前にホットミルクを飲みたくなります。「牛乳のトリプトファンが眠りを助ける」と聞く一方で、「寝る前のホットミルクは逆効果」という記事もあり、どちらを信じればいいのか迷う人も多いのではないでしょうか。
この記事では、牛乳1杯に入っているトリプトファンの量を国の成分表で確かめ、トリプトファンと牛乳の研究をまとめた論文と照らし合わせます。そのうえで、「逆効果」と言われる理由と、飲むならどうすればいいかを整理します。
結論 — 1杯のトリプトファンは、効果が見られた量の10分の1以下
牛乳コップ1杯(200ml)に入っているトリプトファンは約95mgです。トリプトファンの研究をまとめた論文で、夜中に目が覚めている時間が短くなったのは1日1g以上とったときでした。1gを牛乳でとるには、約2.1リットルが必要です。
つまり、「ホットミルクの成分で眠くなる」という説明には、量の面で無理があります。一方で、コップ1杯のホットミルクが眠りを悪くすると示した研究も、今回は見つかりませんでした。温かい飲み物でひと息つく習慣として飲むのはかまわない、というのが今の研究から言えることです。
牛乳1杯に入っているトリプトファンの量
文部科学省の「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」で、普通牛乳の値を確かめました。
| 項目 | 100gあたり | コップ1杯(200ml・約206g) |
|---|---|---|
| トリプトファン | 46mg | 約95mg |
| エネルギー | 61kcal | 約126kcal |
| たんぱく質 | 3.3g | 約6.8g |
200mlは、牛乳の重さを1mlあたり約1.03gとして約206gで計算しました。トリプトファンは体の中でセロトニンやメラトニン(眠りに関わるホルモン)の材料になるアミノ酸で、牛乳だけでなく、肉・魚・大豆製品・卵など、たんぱく質を含む食品に広く入っています。
トリプトファンで眠りが変わったのは「1g以上」
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文 | Sutanto CN ほか "The impact of tryptophan supplementation on sleep quality: a systematic review, meta-analysis, and meta-regression"(Nutrition Reviews、2022年) |
| 何をしたか | トリプトファンをサプリメントなどでとった研究18本を集め、そのうち4本のデータをまとめて分析 |
| わかったこと | トリプトファンをとると、寝ついたあとに目が覚めている時間が短くなった。1g以上のグループは28.91分、1g未満のグループは56.55分 |
| 変わらなかったこと | 寝つくまでの時間など、ほかの睡眠の指標には影響しなかった |
研究で使われたのは、トリプトファンだけを取り出したサプリメントなどです。牛乳のように、ほかのアミノ酸もたくさん含む食品からとった場合とは、体への入り方が同じとは限りません。それでも、1杯の約95mgは、効果が見られた1gの10分の1以下です。
牛乳と睡眠の研究は「結果がまちまち」
牛乳や乳製品そのものと睡眠の関係を調べた研究は、日本の研究者らによる系統的レビュー(Komada Y ほか、International Journal of Environmental Research and Public Health、2020年)がまとめています。
- 1972〜2019年に発表された14本の研究を対象にした(ランダム化比較試験8本など)
- 対象は高齢者、幼児、子ども、大学生を含む大人とさまざま
- 著者らは、乳製品を含むバランスのよい食事が睡眠の質の改善に役立つとしながらも、研究ごとに対象者や方法が違い、結果はまちまちだったとまとめている
このレビューが示しているのは、「乳製品を含むふだんの食事」と睡眠の関係です。「寝る前の1杯で今夜よく眠れる」ことを確かめたものではありません。
「寝る前のホットミルクは逆効果」と言われる理由
検索上位にある「逆効果」の記事(プレジデントオンライン、2021年)は、管理栄養士の書籍からの抜粋で、理由を2つ挙げています。
- 時間が間に合わない:トリプトファンがメラトニンになるまでには時間がかかるので、寝る直前に飲んでも間に合わない
- 消化器が働いてしまう:牛乳の脂質や糖質が胃に残ると、眠っている間も消化のために体が働き、眠りの質が下がるおそれがある
1つ目は、トリプトファンの量が少ないというこの記事の結論とも合います。ただ、量の時点で十分ではないので、飲む時間を早めても「トリプトファンで眠る」ことにはなりにくいでしょう。
2つ目について、コップ1杯程度の牛乳が眠りを悪くしたと示す研究は、今回探した範囲では見つけられませんでした。量の多い夜食や脂っこい食事を寝る直前にとるのとは、分けて考えたほうがよさそうです。
飲むなら気をつけたい4つのこと
- 量はコップ1杯まで:寝る前に水分を多くとると、夜中にトイレで目が覚めやすくなります。1杯でも約126kcalあるので、毎晩の習慣にするなら食事全体で調整しましょう
- 寝る直前より、少し前に:布団に入る直前に飲むより、入浴後や寝る準備の途中など、少し余裕のある時間に飲むほうがトイレの心配が減ります。体を温めるなら、お風呂のタイミングも大切です(お風呂は寝る90分前)
- 飲んだあとに歯をみがく:歯みがきのあとに飲むなら、口をゆすぐか、もう一度みがいてから寝ましょう
- カフェインの入った飲み物と混ぜない:ミルクティーやカフェオレ、ココアにはカフェインが含まれます。寝る前なら、牛乳だけを温めるのが無難です(カフェインは何時まで?)
牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする人は、無理に飲む必要はありません。温かい白湯や麦茶など、カフェインのない飲み物でも、ひと息つく習慣にはなります。
よくある質問
寝る前にホットミルクを飲むと、よく眠れますか?
寝る前のホットミルクは逆効果ですか?
ホットミルクは寝る何分前に飲むのがいいですか?
寝る前のホットミルクで太りますか?
参考:文部科学省「食品成分データベース 普通牛乳(アミノ酸)」(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年)/Sutanto CN, Loh WW, Kim JE. "The impact of tryptophan supplementation on sleep quality: a systematic review, meta-analysis, and meta-regression." Nutr Rev. 2022;80(2):306-316/Komada Y, et al. "The Effects of Milk and Dairy Products on Sleep: A Systematic Review." Int J Environ Res Public Health. 2020/プレジデントオンライン「寝る前のホットミルクは逆効果」(2021年2月5日)。コップ1杯の値は、牛乳1mlを約1.03gとして編集部が計算。いずれも2026年10月26日に確認。