明日に響くとわかっている。眠くもある。それなのに寝ない——リベンジ夜更かしは、本人にとっても不合理な行動です。「なぜ自分はこんなことをしてしまうのか」と考えたことがある人は多いはずです。
実はこの不合理、心理学の研究対象になっています。研究の世界では「就寝先延ばし(bedtime procrastination)」と呼ばれ、2014年頃にオランダの研究グループが概念として提唱して以来、各国で調査が積み重なってきました。この記事では、研究が示してきた説明を3つに整理します。
前提:「就寝先延ばし」という研究分野
就寝先延ばしは、「他に妨げる事情がないのに、意図した時刻より就寝を遅らせること」と定義されます。提唱した研究グループの調査では、就寝を先延ばししがちな人ほど睡眠不足を感じている割合が高く、そしてこの傾向は仕事や勉強の先延ばし癖とも相関することが示されました。夜更かしは睡眠の問題である前に、先延ばしという行動の問題でもある——これがこの分野の出発点です。
その後、中国のSNSで「報復性熬夜」という言葉が生まれて世界に広がり(言葉の由来はこちら)、「日中の時間を奪われた反動」という動機の側面が研究にも取り込まれていきました。
説明1:夜は「自制心の在庫」が切れている
一日の終わりの自分を思い出してください。仕事で判断を重ね、人間関係に気を遣い、誘惑を我慢し続けた後の夜です。心理学では、こうした自己コントロールの繰り返しがその後の自制を効きにくくすることが繰り返し観察されています。
「寝るべき時刻に寝る」は、実は自制を要求する行動です。楽しいことを中断し、スマホを置き、電気を消す——そのすべてに小さな意志力が要ります。ところが夜は、その意志力が一日で最も枯れている時間帯。「わかっているのにやめられない」のは、わかる能力と止める燃料が別物だからです。日中に消耗が激しい日ほど夜更かしがひどくなる、という多くの人の実感とも一致します。
説明2:就寝が「先延ばしされるタスク」になっている
2つめの説明は視点の転換です。私たちは夜更かしを「誘惑に負けた」と捉えがちですが、研究の枠組みではむしろ、就寝そのものが「面倒なタスク」として先延ばしされていると見ます。
歯を磨く、風呂に入る、明日の準備をする、電気を消す——就寝の前には小さな面倒の階段があります。疲れた夜ほどこの階段が重く見え、「あとちょっとしてから」とスマホに逃げる。つまり夜更かしの少なくない部分は、積極的に遊んでいるのではなく、寝るのが面倒で漂流している時間です。この説明が当てはまる人には、就寝前の面倒を減らす(風呂を先に済ませる、寝室を整えておく)だけで改善することがあります。実践はやめ方の記事にまとめています。
説明3:夜型の体質と、朝型社会のズレ
3つめは体質の話です。人には朝型・夜型の生まれつきの傾向(クロノタイプ)があり、就寝先延ばしは夜型の人に多いことが報告されています。夜型の人は、体内時計としてはまだ眠くない時刻に「社会の都合で」寝ることを求められており、そのズレが先延ばしの形で表面化しやすいのです。
この説明の大事なところは、夜型自体は病気でも怠けでもないという点です。ただし朝の始業が動かせない以上、夜型の人ほど「夜の設計」を意識的にやらないと慢性的な睡眠不足に落ちやすい、ということでもあります。
3つの説明は、対策の入口を変える
説明が3つあるのは、効く対策が人によって違うからです。
- 自制心の枯渇型 — 夜に意志力を使わせない仕組み(スマホの物理隔離、終わりの儀式)が効く
- 就寝先延ばし型 — 寝るまでの面倒の階段を減らす段取りが効く
- 夜型ズレ型 — 光の浴び方と起床時刻の固定でリズム全体を少しずつ前に寄せるのが本筋
そして、どの型にも共通する土台が「日中に自分の時間がない」という構造の問題です(構造の解説はこちら)。心理学の説明は自分を責める材料ではなく、どの入口から手をつけるかを選ぶための地図として使ってください。
自分がどの型に近いかを行動から確かめたい人は、下の診断が参考になります。