勉強や仕事の前に、アロマを焚くと集中できる。ローズマリーが記憶にいい、ペパーミントで頭がすっきりする、レモンの香りでミスが減る——香りと集中力の話は、ネットでよく見かけます。でも、どこまでが研究で確かめられたことなのでしょうか。
この記事では、よく引用される研究を論文の要旨までさかのぼって確認し、わかっていることと、わかっていないことを分けて整理します。
結論:研究で「集中や記憶の成績が上がった」という結果が出ているのは、主にローズマリーとペパーミントの香りです。どちらも覚醒感(頭が冴えた感じ)も高めました。一方で、ラベンダーやイランイランは気分を落ち着かせる方向に働き、作業記憶や処理の速さが下がった実験があります。コーヒーの香りは、カフェインを含まないのに成績が上がり、その理由の一部は「成績が上がりそう」という期待でした。ただし、どの研究も参加者が数十〜百数十人の小さな実験で、香りだけで集中力が大きく変わるとまでは言えません。
研究でわかっていること(一覧)
| 香り | 研究 | 結果 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ローズマリー | Mossら 2003(144人を3群に分けた実験) | 記憶の質が上がり、覚醒感も高かった。一方、記憶の速さは遅くなった | 良い結果と悪い結果が混在 |
| ローズマリー | Moss・Oliver 2012(20人) | 血液中の香り成分(1,8-シネオール)が多い人ほど、計算などの課題の速さと正確さが高かった | 相関であり、香りが原因とまでは言えない |
| ペパーミント | Mossら 2008(144人を3群に分けた実験) | 記憶の成績が上がり、覚醒感も高まった | 1回の短い実験 |
| イランイラン | 同上 | 記憶の成績が下がり、処理が遅くなった。覚醒感は下がり、落ち着きは高まった | 集中より休息向き |
| ラベンダー | Mossら 2003/Malloggiら 2021(11研究のまとめ) | 作業記憶の低下と反応の遅れ(2003)。まとめでは、覚醒が下がる一方で注意の持続は上がる傾向 | 研究ごとに精油の品質や方法がばらばら |
| コーヒー(カフェインなし) | Madzharovら 2018(大学生約100人) | 数学の問題の得点が上がった | 「成績が上がる」という期待が一因 |
ローズマリー:記憶の「質」が上がり、頭が冴えた
英国ノーサンブリア大学のマーク・モス博士らは、2003年に健康な大人144人を3つのグループに分け、ローズマリーの香り・ラベンダーの香り・香りなしの部屋で、コンピューターを使った記憶と注意のテストを受けてもらいました。参加者には、香りの研究だとは途中まで伝えていません(香りへの期待で結果がゆがまないようにするためです)。
結果、ローズマリーのグループは記憶の全体的な質が上がり、テストのあとの覚醒感も香りなしのグループより高くなりました。ただし、記憶を思い出す速さは遅くなっていて、すべてが良くなったわけではありません。
同じ研究チームは2012年に、ローズマリーの香りの部屋で課題をした20人の血液を調べ、ローズマリーの主な香り成分である1,8-シネオールの血中濃度が高い人ほど、引き算や情報処理の課題が速く、正確だったと報告しています。香りの成分が吸い込まれて体に入り、脳に働いている可能性を示した結果です。ただし、これは「濃度が高い人ほど成績が良かった」という関係を見たもので、香りが成績を上げたと証明したものではありません。論文の著者自身も、ほかの成分が関わっている可能性を挙げています。
ペパーミント:記憶と覚醒感が上がり、イランイランは逆だった
モス博士らは2008年にも144人で同じ形の実験をしています。比べたのはペパーミントとイランイラン(甘い花の香り)、香りなしの3つです。
ペパーミントのグループは記憶の成績が上がり、覚醒感も高まりました。反対に、イランイランのグループは記憶の成績が下がり、処理も遅くなりました。イランイランは覚醒感を下げた一方で、落ち着きを大きく高めています。論文は、精油の香りは種類ごとに独特の、ときに正反対の効果を持つとまとめています。
ラベンダーは「集中」より「落ち着き」
ラベンダーは、2003年の実験では作業記憶(一時的に情報を覚えておく力)が下がり、記憶と注意の課題で反応が遅くなりました。一方、テストのあとの満足感は、香りなしより高くなっています。
2021年にイタリアの研究者らが、健康な人がラベンダーの香りを吸った11の研究をまとめたところ、覚醒(興奮)は下がるが、注意の持続は上がる傾向が見られました。記憶への影響は研究によって結果が分かれています。このまとめは同時に、多くの研究で精油の品質が確かめられておらず、方法もばらばらなので、香りそのものの効果と思い込みの効果を見分けられないと指摘しています。
ラベンダーは「シャキッと集中」より、緊張をほぐして落ち着いて取り組みたいとき向き、と考えるのが研究の結果に近い読み方です。寝る前に使う人が多いのも、この方向の香りだからです。
コーヒーの香り:効いたのは「期待」
米スティーブンス工科大学のマジャロフ氏らは2018年に、大学生約100人に、ビジネススクールの入試(GMAT)に似た数学の問題10問を解いてもらいました。コーヒーのような香りの部屋のグループは、香りのない部屋のグループより得点が高くなりました。
コーヒーのような香りにカフェインは入っていません。別に200人以上に聞いた調査では、多くの人が「コーヒーの香りがあると頭が冴えて、成績が上がりそうだ」と考えていました。研究チームは、香りが「できそう」という期待を高め、それが成績の向上に少なくとも一部関わったと説明しています。思い込みの効果(プラセボ効果)に近い働きです。
この結果は、香りの効果を考えるときの大事なヒントです。自分が「集中できる」と感じる香りを使うこと自体に意味があるとも言えますし、逆に「この香りは効く」と信じている人ほど、研究の結果以上の効果を感じている可能性もあります。
「レモンの香りでミスが54%減った」は出典を確認できなかった
日本では、「レモンの香りを流したら、キーボード入力のミスが54%減った」という話がよく紹介されます。建設会社と香料会社の実験とされることが多いのですが、編集部では、元になった論文や報告書を確認できませんでした。数字が独り歩きしている可能性があるため、この記事では根拠として扱いません。レモンなどかんきつ系の香りに気分を明るくする働きがあるという話も多いものの、集中力の数字として確かめられた研究は、上の表のものほど明確ではありません。
香りは「思い出すための手がかり」にもなる
集中とは少し違いますが、香りと記憶の関係でよく知られる研究があります。ドイツのラッシュらが2007年に科学誌Scienceに発表した実験で、バラの香りをかぎながら覚えた内容は、深い眠り(徐波睡眠)の間に同じ香りを流すと、翌朝よく覚えていたというものです。香りを流すのが浅い眠りや起きている間だったり、覚えるときに香りがなかったりした場合には、この効果は出ませんでした。
これは、香りが記憶を呼び起こす手がかりになることを示した研究です。ただし、実験室で眠りの段階を測りながら香りを流した結果で、家庭で同じことをする方法が確かめられているわけではありません。
香りを試すときの使い方と注意
- 集中したいときはローズマリー・ペパーミント、落ち着きたいときはラベンダー:研究の方向に合わせて使い分けます。寝る前にペパーミントのような覚醒方向の香りを使うのは避けたほうがよいでしょう
- ほのかに香る程度にする:研究は、部屋に香りがある状態で行われています。強すぎる香りは頭痛や気分の悪さにつながることがあります
- 勉強や仕事のときだけ使う:同じ香りを「作業を始める合図」にすると、香りそのものの効果に加えて、気持ちの切り替えのきっかけになります
- 精油の原液を肌につけない・飲まない:精油は濃度の高い成分です。製品の注意書きに従ってください
- 子ども・妊娠中の人・ペットがいる部屋は慎重に:使える精油や量が大人と異なる場合があります。ペット、特に猫がいる家では使用を控えるよう呼びかける情報も多いので、心配な場合は獣医師に相談してください
- 香りより先に、スマホを離す:スマホが目の届くところにあるだけで、使える注意の量が減るという研究があります(スマホは見ていない時間も集中力を奪う)。香りはあくまで補助と考えましょう
研究に近い香りを試すなら、ローズマリーは主成分が1,8-シネオールのタイプ(「ローズマリー・シネオール」などの名前で売られています)を選ぶと、2012年の研究で測られた成分と合います。
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よくある質問
勉強に一番いい香りはどれですか?
ラベンダーは集中に向かないのですか?
コーヒーの香りだけで頭が冴えますか?
寝ている間に香りを流すと記憶がよくなりますか?
参考:Moss M, et al. Aromas of rosemary and lavender essential oils differentially affect cognition and mood in healthy adults. International Journal of Neuroscience. 2003;113(1):15-38/Moss M, Oliver L. Plasma 1,8-cineole correlates with cognitive performance following exposure to rosemary essential oil aroma. Therapeutic Advances in Psychopharmacology. 2012;2(3):103-113/Moss M, et al. Modulation of cognitive performance and mood by aromas of peppermint and ylang-ylang. International Journal of Neuroscience. 2008;118(1):59-77/Malloggi E, et al. Lavender aromatherapy: A systematic review from essential oil quality and administration methods to cognitive enhancing effects. 2021/Madzharov A, et al. The impact of coffee-like scent on expectations and performance. Journal of Environmental Psychology. 2018/Rasch B, et al. Odor cues during slow-wave sleep prompt declarative memory consolidation. Science. 2007;315:1426-1429。各研究の内容は論文の要旨と著者所属機関の発表で確認しました。資料確認:2026年10月14日。一般的な情報であり、治療や効果を保証するものではありません。