「子どもにいつからスマホを持たせるか」。この問いに、北米の親たちの間でちょっと変わった答えが広がっています。通話しかできない、子ども用のWi-Fi固定電話です。
製品の名前は「Tin Can(ティン・カン)」。英語で「空き缶」、つまり糸電話のことです。缶と糸の代わりにWi-Fiを使う現代版糸電話——というコンセプトの通り、できることは驚くほど少ない。そして、その少なさこそが売りになっています。
糸電話のハイテク版 — Tin Canとは
Tin Canは、Wi-Fi接続・コンセント給電で動く子ども用の固定電話です。見た目はレトロなプッシュダイヤル式の電話機で、受話器はあえて有線コード付き。コードレスにしなかったのは、受話器をなくさないためと、家の決まった場所で腰を落ち着けて話すためだと説明されています。
画面はありません。アプリも入りません。メッセージも送れません。できるのは、電話をかけることと受けることだけです。
話せるのは、親が承認した相手だけ
ただの電話機と違うのは、通話相手の管理がすべて親のアプリ側にあることです。
- 承認制の連絡先 — 親がアプリで承認した相手とだけ発着信できる。営業電話や知らない人からの接触は最初から届かない
- Tin Can同士は無料 — 友達の家にもTin Canがあれば、追加料金なしで話し放題(Can 2 Canプラン)
- 留守電と短縮ダイヤル — 短縮ダイヤルは4件まで。おばあちゃんの家をワンプッシュに登録するような使い方
- 時間指定のサイレントモード — 宿題・夕食・就寝の時間帯は着信を止められる。ただし緊急通報(911)はサイレント中でも必ずつながる
「夜は電話がつながらない」を機械側で保証してくれる設計は、寝る前のやりとりが止まらなくなりがちなスマホとの、わかりやすい対比です。
価格は75ドル。兄弟や友達の分は割引
本体は1台75ドル(約11,200円)。2台なら1台70ドル、3台なら65ドルと、台数を増やすほど安くなる価格設定です。友達の家とセットで導入してこそ真価が出る製品なので、この割引は理にかなっています。
Tin Can同士の通話だけなら月額は不要。北米の一般的な電話番号と話したい場合は、月9.99ドル(約1,500円)の「パーティーライン」プランを追加する形です。現在は北米とイギリスで販売されており、日本からは購入できません。
「なんでもできない」が最大の機能
スマホを子どもに渡すことの難しさは、電話を渡すつもりでもSNS・動画・ゲームが必ずセットでついてくることにあります。連絡手段だけ欲しいのに、注意を奪い合うアプリの生態系ごと手渡すことになる。
当サイトでも紹介した通り、スマホは視界にあるだけで集中力を奪うことが研究で示されています。使っていない時間さえ無関係ではいられない道具を、脳が発達途中の子どもに渡すタイミングは、慎重になって当然です。
Tin Canはこの問題を、機能制限アプリやフィルタリングで解決するのではなく、そもそも画面を作らないことで解決しています。依存の入口が物理的に存在しないので、使いすぎの心配も、設定の抜け穴もありません。
日本で買える「近い」製品
Tin Canそのものは輸入できませんが、「画面を与えずに連絡手段だけ渡す」という目的なら、日本にも設計思想の近い製品があります。
一番近いのはユカイ工学の「BOCCO emo(ボッコ エモ)」です。家に置く小型ロボットで、スマホを持たない子どもと外出中の家族が、ボタンひとつで音声メッセージをやりとりできます。画面はなく、子ども側の操作は「ボタンを押して話す」だけ。「家に置く」「声だけ」「画面なし」という3点がTin Canと同じ発想です。
「持ち歩ける通話手段」まで必要なら、キャリアのキッズケータイ(ドコモ KY-41C など)が現実解です。画面はありますがSNSや動画アプリは入らず、通話とメッセージ、GPSでの見守りが中心。Tin Canより多機能なぶん、「家に置く」区切りは失われるので、何を優先するかで選ぶことになります。
日本の家庭が真似できる考え方
日本ではキッズケータイが近い役割を担っていますが、あちらは画面もメッセージ機能もある小さなスマホです。Tin Canが面白いのは、機能の少なさに加えて「家に置く電話」という形を選んだことです。
持ち歩けない通信手段は、「連絡は家に帰ってからとるもの」という区切りを毎日自然に作ります。通信できる場所と時間が決まっていること——大人のデジタルデトックスで「スマホを寝室に持ち込まない」が定番なのと、考え方は同じです。
製品そのものは日本未発売ですが、この設計思想は輸入できます。子どもの最初の通信手段を「持ち歩く画面」にするか「家に置く声」にするか。選択肢が片方しかないと思い込む必要はない、というのがこのニュースの一番の収穫です。