タスク管理アプリを乗り換え続けた人が、最後に紙へ戻ってくる——そんな流れを象徴するプロダクトがあります。米国のデザインブランドUgmonk(アグモンク)が作る「Analog(アナログ)」。紙のカードと木のスタンドだけでできた、画面のないタスク管理システムです。
クラウドファンディング発の小さなプロダクトですが、公称で世界5万人以上が使うロングセラーになっています。高機能化を競うタスクアプリと真逆の方向に、なぜ人が集まるのかを見ていきます。
3種類のカードと木のスタンド — Analogとは
構成は拍子抜けするほどシンプルです。カードは役割別に3種類。
- Today — 今日やることを書く。使うのは1日1枚だけ
- Next — 近いうちにやることの待機列
- Someday — いつかやるかもしれないことの置き場
カードは3×5インチ(はがきの半分強)の厚手用紙で、裏面はドット方眼のメモ欄。これをウォールナット無垢材のホルダーに立てて、Todayカードだけが常に正面を向くようにデスクへ置きます。ホルダーはマグネット式のスチール仕切り付きで、カードを50枚まで収納。米ペンシルベニア州の自社工房で作られています。
価格は、ホルダーと1ヶ月分のカードが入った「Daily Focus Kit」が69ドル(約10,300円)。紙とスタンドの値段と考えると強気ですが、机の上に置きたくなる道具としての作り込みがこの製品の核でもあります。
使い方 — 朝に書いて、終わらなければ翌日書き直す
朝、Todayカードに今日やることを書きます。各行の先頭には丸印があり、塗りつぶせば完了、半分なら進行中、印を変えれば持ち越しと、ペン1本で状態を管理します。
ポイントは、終わらなかったタスクの扱いです。アプリなら自動で翌日に繰り越されますが、Analogでは翌日のカードに手で書き直すことになります。この一手間が仕分け装置として働きます。3日連続で書き写しているタスクは、書き写すたびに「これは本当にやるのか」と自分に突きつけられる。やらないと決めてSomedayカードへ送るか、捨てるか。アプリの繰り越しリストの底に沈んで二度と見られないタスクが、紙では発生しにくいのです。
アプリより不便。それが効く理由
タスクアプリは無限に書けて、並べ替え自由で、リマインダーも送ってくれます。その結果起きがちなのが、数百件が眠る「リストの墓場」です。書くコストがゼロだと、やらないことまで際限なく溜まっていきます。
Analogはこれを制約で解決します。1日1枚、書ける行数に限りがある。物理的に全部は書けないので、書く前に選ぶしかありません。さらに通知はゼロですが、デスクの上に立っているカードそのものが視界に入るリマインダーになります。
副次的ですが見逃せないのが、タスク確認のためにスマホを開かなくて済むことです。当サイトで紹介した通り、スマホは視界にあるだけで集中力を削り、「タスクを見るだけ」のつもりが通知やSNSに流れる事故は日常的に起きます。脳の「ブレインドレイン」現象を踏まえると、タスク管理を紙に逃がすのは集中の保険としても機能します。
夜への効用 — 頭の中の「未完了」を紙に預けて眠る
睡眠メディアとしてはここが本題です。布団に入ってから今日の積み残しと明日の段取りが頭を回り出して眠れない——この状態に、書き出しは直接効くことが示されています。
ベイラー大学のScullinらの実験(2018年)では、就寝前に5分間「これからやるべきこと」を書き出したグループは、「今日やり終えたこと」を書いたグループより有意に速く入眠しました。しかも、具体的に書いた人ほど効果が大きかったと報告されています。頭の中の未完了タスクは脳が保持し続けようとしますが、紙に書けば「外部に保存済み」になり、保持の仕事から解放される——という説明がされています。
Analogの運用にこれを組み込むなら、寝る前ではなく仕事を終えるタイミングで明日のTodayカードを書いてから机を離れるのがきれいです。頭の棚卸しが終業のスイッチになり、夜に持ち越す未完了が減ります。
日本で買うには — まず思想だけ試す手もある
Analogは公式サイト(ugmonk.com)から日本への発送に対応しています。ただ、送料や関税を考えると気軽な買い物ではありません。
幸い、この仕組みの核は紙とペンなので、市販のインデックスカード(情報カード)で運用だけ真似ることができます。1日1枚、書けるのは10個まで、終わらなければ手で書き写す。このルールで数週間回してみて、合うと分かってから道具に投資しても遅くありません。思想は無料です。
その上で、「同じ思想・同じ質感の道具を日本で手に入れるなら」という視点で選ぶと、近いのは次の2つです。
思想が近い — ロイヒトトゥルム1917「バレットジャーナル エディション2」
Analogの根っこにあるのは、あえて手で書く工程を残すことで、やることを選別させる考え方です。この思想を世界に広めた本家が「バレットジャーナル」——箇条書きと記号だけで1日を設計するアナログ手帳術で、Analogはしばしば「バレットジャーナルのカード版」と紹介されます。その公式ノートが、ドイツの老舗ノートブランド、ロイヒトトゥルム1917のエディション2。しっかりした厚手用紙とハードカバーに、メソッドの手引きが付いた「思想ごと買える」一冊です。カードよりノート派なら、こちらが本流と言えます。
質感が近い — Hacoaの木製カードスタンド
Analogのもうひとつの本体は、ウォールナット無垢材のホルダーが持つ「机に置きたくなる佇まい」です。日本でこれに通じるのが、福井県鯖江の木工ブランドHacoa(ハコア)。無垢材から削り出したカードスタンドに紙のカードを立てれば、役割はAnalogのホルダーとほぼ同じです。道具の佇まいが良いと、毎朝カードを書く習慣そのものが続く——Analogユーザーがよく語る効果を、国産の木工で再現できます。
なお、立てるカード自体を安く揃えるなら、Analogと同じ3×5インチ規格のコクヨ「情報カード 5×3サイズ」(100枚530円+税)が定番です。