帰りの電車で座った瞬間、まぶたが重くなる。家に着いてソファに腰を下ろしたら、気づけば18時半。それなのに夜は、0時を過ぎても目が冴えて眠れない。夕方はあれほど眠かったのに、なぜ肝心の夜に眠くならないのでしょうか。
先に結論を書くと、夕方の眠気と夜の寝つきの悪さは、別々の悩みではなく1本の流れです。夕方に強い眠気が来るのは睡眠が足りていないサインで、そこでうたた寝をすると、夜のためにたまっていた眠気を先に使ってしまいます。すると寝つける時刻が後ろへずれ、睡眠がさらに減り、次の日の夕方にまた眠くなります。
この記事では、眠気が1日のなかでどう上下するかを調べた研究と、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」「健康づくりのための睡眠ガイド2023」をもとに、この流れの仕組みと、夕方の眠気をやり過ごす方法を整理します。
眠気の山は1日に2回ある
イスラエルの睡眠研究者ラヴィーは、「13分起きて、7分眠ろうとする(または眠気に耐える)」という20分の区切りを24〜36時間くり返す実験で、1日のなかで眠気がどう変わるかを調べました(Lavie、1986年)。一晩眠らずに過ごした条件で3つの実験を行ったところ、眠気の形はどれもよく似ていました。
- 夜の大きな山:夜間に来る、いちばん強い眠気
- 午後半ばの小さな山:午後に来る、2つ目の眠気
- その間の眠りにくい時間帯:2つの山にはさまれた、20〜22時ごろを中心とする時間帯は、眠ろうとしてもなかなか眠れなかった
ラヴィーはこの眠りにくい時間帯を「睡眠の禁止ゾーン(forbidden zone)」と名づけました。あわせて、夜の眠りはだんだん始まるのではなく、ある時刻に門が開くように一気に始まることも報告し、これを「睡眠の門(sleep gate)」と呼んでいます。
20〜22時という時刻は、この実験の参加者で測られたものです。いつも寝る時刻が遅い人ほど、眠りにくい時間帯も後ろにずれていると考えられます。それでも、夕方から夜の早い時間は、1日のなかで眠りにくい時間帯へ向かっていく時間だと知っておくと、夕方の眠気が何を意味するのかが見えてきます。
夕方に強く眠いのは、睡眠が足りていないサイン
午後の小さな山を過ぎた夕方は、本来なら眠気が引いていく時間帯です。それなのに夕方に目を開けていられないほど眠いなら、まず疑いたいのは夜の睡眠不足です。
睡眠指針2014は、自分の睡眠時間が足りているかどうかは日中の眠気の程度に注意するとよく、日中の仕事や活動に支障が出るほどの眠気でなければ、普段の睡眠時間は足りていると考えられる、と説明しています。裏返せば、夕方に毎日のように寝落ちしているなら、睡眠が足りていない可能性が高いということです。
少しずつの寝不足が積み重なった状態は「睡眠負債」と呼ばれます(睡眠負債とは)。平日の寝不足を休日の朝寝坊で取り戻そうとして、週明けに体内時計がずれる「社会的時差ぼけ」が重なっていることもあります(ソーシャルジェットラグとは)。
夕方のうたた寝が、夜の寝つきを遅らせる仕組み
眠気は、起きている時間が長いほど強くなります。起きている間に少しずつたまり、眠ると減っていくこの眠気は「睡眠圧」と呼ばれます(睡眠圧とは)。
夕方に30分、1時間とうたた寝をすると、夜の眠りのためにたまっていた睡眠圧の一部を、その場で使ってしまいます。しかも夕方は、うたた寝から覚めて就寝時刻までの時間が短く、眠気がたまり直す前に夜が来ます。うたた寝から覚めたあとの時間は、もともと眠りにくい時間帯にも重なります。こうして、いつもの時刻に布団に入っても眠くない夜になります。
睡眠ガイド2023の高齢者向けの章は、日中の長時間の昼寝は夜間の良い眠りを妨げる原因になりうるとして避けるよう呼びかけ、目覚ましをかける、同居する家族に起こしてもらうといった工夫をすすめています。長い昼寝や回数の多い昼寝が、夜間の睡眠の質の低下と関連するという報告も紹介されています。
| 時間帯 | 起きていること | その結果 |
|---|---|---|
| 夜 | 眠くならず、寝る時刻が遅れる | 睡眠時間が減る |
| 朝 | 寝不足のまま起きる(寝坊すると体内時計もずれる) | 日中の眠気が強くなる |
| 夕方 | 強い眠気に負けてうたた寝 | 夜の眠気を先に使ってしまう |
| 夜 | また眠くない | 最初に戻る |
この流れを断ち切れるのは、夕方のうたた寝か、翌朝の起床時刻のどちらかです。次の章から、夕方の側で打てる手を順に見ていきます。
夕方の眠気をやり過ごす4つの方法
1. 仮眠は「午後の早い時刻に30分以内」へ前倒しする
睡眠指針2014は、夜に必要な睡眠時間をとれなかった場合、午後の早い時刻に30分以内の短い昼寝をすることが、眠気による作業能率の改善に効果的だとしています。必要以上に長く寝ると、目覚めの悪さ(睡眠慣性)が残るためです。
夕方に寝落ちしやすい人は、眠くなってから横になるのではなく、昼食のあとの早い時間に20分ほどの仮眠を先に入れておきましょう。机に伏せる、椅子にもたれるなど、横にならない姿勢のほうが寝すぎを防げます。昼寝の長さと深い眠りの関係は昼寝は何分がベスト?、スマホのアラームだとそのまま画面を見てしまう人は30分の砂時計も参考にしてください。
2. 帰宅後すぐに座らない・横にならない
夕方のうたた寝の多くは、ソファや床に体を預けた瞬間に始まります。帰宅したら、座る前に着替える、夕食の準備や洗い物など立ってできる家事を先に済ませる、といった順番にするだけで、寝落ちの入り口を減らせます。眠気の強い日は、電車で座らずに立つのも1つの方法です。
3. 夕方に体を動かす
睡眠ガイド2023は、夕方や夜の時間帯の運動も、就寝の約2〜4時間前までであれば睡眠の改善に有効だという報告を紹介しています。眠気が来やすい時間に合わせて、ひと駅歩く、買い物を歩いて済ませる、軽いストレッチをするなど、座ったままにならない時間をつくりましょう。
4. カフェインで押し切らない
夕方の眠気をコーヒーやエナジードリンクで乗り切ると、今度はその夜の寝つきに響きます。睡眠指針2014は、夕方から就寝前のカフェインは寝つきを妨げたり、睡眠時間を短くしたりする傾向があるとし、カフェインの血中濃度が半分になるまでの時間(半減期)を3〜5時間としています。何時までなら影響が少ないかはカフェインは何時まで?、エナジードリンクの注意点は疲れている時のエナジードリンクで詳しく書いています。
寝てしまった日の夜は、早く布団に入らない
うたた寝をしてしまった日は、「今夜は眠れないかもしれない」と早めに布団に入りたくなります。けれど、眠くないまま布団で過ごす時間が長いと、布団の中で目が冴えたまま時間が過ぎていきます。睡眠ガイド2023の高齢者向けの章も、昼夜のメリハリをつけるために必要以上に寝床で過ごさないことをすすめています。
- いつもの就寝時刻までは、明かりを少し落とした部屋で静かに過ごします
- 眠気が来てから布団に入ります。眠くないうちは、無理に目を閉じて粘らなくて構いません
- 翌朝は、いつもの時刻に起きます。寝不足でも起床時刻を守れば、次の夜は眠気が早めに来やすくなります
夜にスマホを見続けて寝つきがさらに遅れる人は、寝室にスマホを持ち込まない工夫も合わせてください。何日もずれてしまったリズムの戻し方は生活リズムを戻すには何日かかる?にまとめています。
1日の流れ(例:7時起き・24時就寝の場合)
| 時刻 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 7:00 | いつもどおり起きて、カーテンを開ける | 前の夜が遅くても起床時刻は動かさない |
| 昼食後 | 机に伏せて20分ほど仮眠 | 30分を超えない。アラームは離れた場所に |
| 16:00ごろ | 最後のコーヒーはこのあたりまで | 就寝の8時間前が目安。夕方以降に持ち越さない |
| 17:00〜19:00 | 帰り道を歩く。帰宅したら座る前に家事 | うたた寝の入り口をつくらない |
| 20:00〜22:00 | 明かりを少し落として過ごす | 眠りにくい時間帯。早く寝ようとしない |
| 24:00 | 眠気が来たら布団へ | 眠くなければ少し待ってから |
夕方の眠気が早すぎるとき、強すぎるとき
年齢とともに早寝・早起きの傾向は強まります。夕方になると強い眠気が来て20時前に寝てしまい、早朝2〜3時ごろに目が覚めてそのまま眠れない、という形が慢性的に続くものを、睡眠指針2014は「睡眠相前進症候群」として説明しています。睡眠ガイド2023は、高齢で夕方に眠気が訪れるのが早くて困っている人が早朝に日光を浴びると、さらに朝型を強める可能性があると注意しています。
また、夜に十分眠っているつもりなのに夕方や日中の強い眠気が続く、会議中や運転中にも眠ってしまう、いびきや呼吸が止まっていることを指摘された、という場合は、睡眠の病気が隠れている可能性もあります。自分の工夫だけで判断せず、かかりつけ医や睡眠を診る医療機関に相談してください。運転中の眠気は事故につながるので、我慢せずに車を止めて休んでください。
よくある質問
夕方に10分だけ目を閉じるのも避けたほうがいいですか?
夕方に眠くなるのは自律神経の乱れが原因ですか?
夕方に寝てしまい、夜まったく眠くありません。今夜はどうすればいいですか?
夜型の人も20〜22時は眠りにくいのですか?
参考:厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」(日中の眠気と睡眠時間、午後の早い時刻の30分以内の昼寝、夕方以降のカフェイン、睡眠相前進症候群)、厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(高齢者版の昼寝と床上時間、夕方・夜の運動、高齢者の早朝の光)、Lavie P. Ultrashort sleep-waking schedule. III. 'Gates' and 'forbidden zones' for sleep. Electroencephalography and Clinical Neurophysiology. 1986;63(5):414-425.